こんにちは。鈴木けんぽうです。

新年度がスタートし、いかがお過ごしでしょうか。渋谷の街で満開に咲き誇っていた桜もそろそろ散り始めていますね。
風雨に負けず、何とかこの週末までは持ってほしいところです。



新しい出会いにときめく反面、春は別れの季節。子ども時代の切ない記憶がよみがえります。
小学校卒業の前後、クラスメートはどんどん渋谷の街を去っていたのです。

友達の家がある日、突然駐車場になる。好きな女の子の家がいつの間にか更地になっている――。そう、時は80年代後半のバブル時代。開発の波が渋谷区に押し寄せ、地上げ等で転出する同級生もいたようです。

ただ、当時の自分は子どもですから目の前の別れを悲しんでばかり。経済的・社会的な要因があったことまで分かりませんでした。



■「渋谷区土地利用調整条例」って何?


なぜこんな昔話を持ち出したかというと、先日の渋谷区議会で私たち民主党渋谷区議団も賛成して成立した「渋谷区土地利用調整条例」の意義を知っていただきたいからです。
バブル期以降の渋谷区では土地の値段が高騰し、相続対策などで敷地面積がどんどん細分化してマンションやアパートの建設が増加した結果、街並みの形成に影響が出てきた背景があるのです。


土地が細分化される弊害は、景観という「見た目」の問題だけでありません。
隣の建物と近ければ災害のときに火事が拡大しかねませんし、逃げ場が無くなります。
細分化が進むとエリア全体の地価も下がります。
敷地が狭くなれば庭がなくなり緑も減っていきます。
さらに、土地の細分化の問題に加え、アパートやマンションの増加によって単身者が増え、残念なことにゴミ、騒音、そして放置自転車など近隣トラブルも増えています。
こうした問題の解決をするには、ルールを作って住環境の悪化に歯止めをかけなくてはなりません。


区が今回提案してきた条例は4つのルールを定めています。
①「最低限敷地面積」の設定②緑化③集合住宅の壁面後退④駐輪施設の設置――です。
私たち民主党は何年も前から条例をつくるように要求してきましたので、区が示した方向性については評価しています。


渋谷区土地利用調整条例(渋谷区の説明です)



■相続が困難に? 条例が持つマイナス面に

しかし、この条例は大きな心配事とも背中合わせです。
というのも街並みの保全を重視するほど、相続や建てかえ等、そこに住み続けている皆さんの財産にネガティブな影響が想定されるからです。


最大のポイントは①の「最低限敷地面積」の設定です。
渋谷区内の第一種低層住居専用地域に対し、現状の平均敷地面積を参考に、今回の渋谷区土地利用調整条例で「建物を建てる際には最低限これくらいの敷地面積は維持してください」と決めるのです。
たとえば富ヶ谷一丁目ですと、現在の平均147平方メートルに対し基準が140平方メートルを確保するルールが定められます。

たしかに細分化に歯止めをかけられるでしょう。
一方で分割しての建築ができなくなるため、相続などで一部を売却する必要が出たときに困ります。
住み慣れた街を不本意ながら離れることにもつながりかねません。

他区で行われている規制は最低限敷地面積を60㎡~100㎡くらいしている場合がほとんどです。
私たち民主党渋谷区議団は、この「渋谷区土地利用調整条例」に賛成するにしても、極力慎重に事に当たるべきだと考えました。


■危機感が足りない区の姿勢

そこで区長には、渋谷区議会3月議会冒頭の3月5日 -条例が提案された直後- に、渋谷区議会の本会議で以下の3点を質問しました。
国会の代表質問ってありますね。あれと同じ、質問形式で区長に対し政策提言を行うのです。

  1. 最低限敷地面積について、現状の独立住宅における平均敷地面積の概ね3分の2程度に緩和するのがよいのではないか?
  2. 税理士等関係業界への周知徹底が重要ではないのか?
  3. 土地の所有者に対して強い規制を行うだけではなく、税理士など専門家へ相談する機会を提供するなどの支援が必要ではないのか?

これに対し、区長は次のような趣旨で答弁なさいました。

  1. 良好な街並みのためには最低限必要な基準である
  2. 条例施行までに周知徹底する
  3. 渋谷区ですでに行っている不動産相談など、各種相談の活用を配慮する

率直なところ、渋谷区の姿勢は危機感が足りない…
区長は「住み続けられる街」を方針として掲げています。厳しめの最低限敷地面積を導入することは、一部地域とはいえ、その方針と逆方向に働く可能性もあります。
渋谷を地元として愛する人たちの人生を大きく変えるのです。条例施行までの周知期間はたった半年にすぎません。私自身も、この条例をきっかけに同級生たちから、「親が年老いてきているので相続が心配だ」と危機感を訴えられています。
もう一歩踏み込んで、影響を受ける人の負担を最小限にしていかなくてはなりません。


■死活問題なのに9割が知らない条例!

ここは、やはり皆さんのリアルな声を聞いてみるべきと思い、私はアンケートを実施しました。
条例の対象地域である松濤・神山町・富ヶ谷・上原・元代々木・西原地域の戸建て住宅にお住まいの約600戸の方にアンケートを取ってみたところ、実に9割が「渋谷区土地利用調整条例なんて知らない」とお答えになりました。

はっきりいって、私の予想を超えていました。


寄せられた声は切実です。
「どんどん細分化していくのは悲しいことだ。住宅街をまもるために心を鬼にするべきだ」(年齢等不詳)というご意見もありましたが、ご家族で居住の70歳の男性は「一般論としては賛成だが、相続を考えると厳しい」と悲痛な声をあげています。
また、「相続で売却せざるを得ない」と答えられた町会役員の方は「集合住宅にした人は町会活動などやらないから、町が崩壊する」とコミュニティへの影響を懸念されていました。
もちろん、「環境を守る趣旨には賛成」「住宅地の細分化を防いでほしい」もありました。街の行く末を真剣に考えてくださる皆さんのご意見もありがたいですね。

条例の賛否を集計したところ、賛成34%、反対37%と拮抗しました。



■渋谷区はきめ細かい対応を!

土地の細分化、街並みの変貌が刻一刻と進んでいます。
熟慮に熟慮を重ねた結果、まずはこのタイミングで街並みを守ることを条例として方向付けた上で、渋谷区に慎重な対応をお願いするのがいいと考え、賛成することを決断しました。


しかし、驚くことに影響を受ける地域の9割の方々が「知らなかった」条例です。
賛成するとともに、議決する際の賛成討論(意見表明)にて下記3点を強く要望しました。

  1. 説明資料を戸別配布するなど、すみやかに周知徹底をすること
  2. 税理士など関係業種への説明をすみやかに行うこと
  3. 直接影響を受ける住民の方に対しては相談窓口を設けて丁寧に対応すること

この条例は極めて意欲的な条例であって、長年提案し続けてきたものです。
今後環境が改善するかどうか推移を見極めるとともに、影響を受ける方にはきめ細かい対応を取るよう、しっかりチェックしていきたいと思います。



(本稿は作成にあたって外部ライターの方にアドバイスをいただいています)