渋谷区議会議員の鈴木けんぽうです。お越しいただきありがとうございます。
PoliPoliという政治コミュニティで「渋谷駅周辺の喫煙所がひどい!」との投稿がありました。
そこで、こちらで渋谷区を中心に路上タバコ政策について私なりに経緯をまとめてみることにしました。
なお、私は「非喫煙者、煙は苦手、友達にも禁煙を進めている、ただしタバコ禁止! 吸うな! みたいな厳しい規制は好ましくない」という立場です。
過去には禁煙治療に助成せよと訴えたこともあります。
安全対策・美化推進としてのたばこ対策
平成6年(1994年)に船橋駅で、たばこがこどものまぶたにあたり救急搬送されるという事件が起きました。それ以来歩きたばこの危険性については2000年代初頭まで各地で大いに議論され、「危険タバコ」は社会問題として認識されました。
それとは別に、もともと街におけるタバコ対策は生活環境として進んできました。ポイ捨ては空き缶や捨て看板などとならんで街を汚すものとしてとらえられていたので。ただし、当時は空き缶ポイ捨てがメインでタバコはさほど意識されていなかったようです。電車のホームやビルのエレベーター前にも灰皿あった時代です。
各地で条例がつくられ、渋谷区でも平成9年(1997年)に「きれいなまちしぶやをみんなでつくる条例」を制定。美化推進の観点からポイ捨ては二万円以下の罰金と定められました(第22条)。
ただし、罰金は現在にいたるまで積極的には運用されていません。
ちなみにこのころの国での議論は「分煙は各事業者・自治体で進めること」との姿勢でした。
千代田区の罰則
タバコ政策が大きな転換点を迎えたのが平成14年(2002年)。
千代田区で罰則つき路上タバコ規制が導入(生活環境条例)されて大きな話題となりました。
趣旨は「条例の考え方は、道路上の喫煙状況が余りにもひどい、道路が汚い、ごみが投げ捨てられる、道路というのはある面ではまちの骨格をつくる主要な部分であります。したがって、そうしたところを快適で安全な生活環境をつくっていきたい(平成29年石川区長議会答弁)」というものです。
既に平成10年(1998年)に千代田区は吸い殻、空き缶等の散乱防止に関する条例を制定していましたが、発展的に改められてこの条例となりました。強い態度で改善しなければならない、という世論を受けたものだといえるでしょう。
渋谷区での議論
千代田区の罰則は渋谷区でも大きな議論を巻き起こします。
ルール化して罰則を付けたほうがいいのではないのか。それともマナーで進むのか。
この論争に決着がついたのは平成18年(2006年)。当時渋谷近隣の高校生が渋谷区議会に提出した「歩行喫煙禁止条例を作ってほしい」との請願。現長谷部区長など反対多数で否決され、渋谷区はマナー啓発を重視することが決定的となりました。
今では、千代田区のようなオフィス街=ほとんどの人が固定客の街と、渋谷のような観光客等多様な方がいらっしゃる街は異なるのではないかとの観点で、ルールかマナーかという2つの方向性に整理されています。
- 罰則をつける:固定客が多い、ルール重視
- 啓発に取り組む:固定客が少ない。マナー重視
マナー啓発を重視した渋谷区では、ポイ捨てや歩きタバコを減らすために、道路上にいくつかの喫煙施設を設置し、JTさんの協力のもと運営してきました。
とはいえ、路上喫煙施設もなかなか難しい。
渋谷駅前で、道玄坂で、恵比寿駅前で、原宿駅前で、初台駅前で…私も多くのご要望をいただきフェンスの設置などに取り組みましたが苦情はなくなりません。
1ヵ所に集めたために煙のインパクトが大きくなってしまったのは皮肉というしかないですね。
よく路上の喫煙所では「密閉して煙が漏れないようにしてほしい」と要望があります。
路上の喫煙所は基本的に道路です。道路には屋根のある建築物は原則作れません。なので、せいぜい塀や入口を工夫するくらいしかできないのです。ご理解ください
このように、美化の観点も安全の観点も道路上特に駅前等人口密集地域での課題として捉えられ、統合して繁華街での路上喫煙禁止が進められました。
そう、渋谷を含む各自治体は、美化と安全の観点から路上で、近年では公園など公共施設での喫煙を制限する方向で進んできたのです。
明文化はされていませんが、裏を返せば鉄道会社や集客施設、オフィスビルが「敷地内で」喫煙者の対応をするべきだ、路上の喫煙者はたばこ産業が対応するべきだという考えだともいえます。
受動喫煙対策
「受動喫煙」「嫌煙権」等の議論が盛んになってきたのはそのあとです。
調査研究の結果、社会的損失も合算するとタバコはかなりの医療費負担を引き起こす、ということが明らかになってきました。そして受動喫煙の被害についても。
それをきっかけに受動喫煙対策についても議論がひろがります。
皮肉なことに、受動喫煙への議論が進むとともに渋谷区が進めてきた喫煙スペースの設置は多くの苦情を受けるようになりました。
1ヵ所に集めたために煙のインパクトが大きくなりました。
平成15年(2003年)、健康増進法に受動喫煙対策が盛り込まれ、平成22年(2010)には不特定多数の訪れる公共施設での全面禁煙が通達されました。
この段階では
- 屋内に分煙のための喫煙スペースを設置することは可能
- 屋外で喫煙することは可能
- 一部施設のみ敷地内全面禁煙
と緩やかなものとなっています。
その間、神奈川県では平成21年(2009年)に受動喫煙禁止条例を定めています。これは受動喫煙防止の観点から、宿泊施設等の民間施設内でも禁煙か分煙化を選択しなくてはならないというもので注目を集めました。
さらに現在、国は健康増進法の改正を検討、東京都は小規模飲食店などを含めた条例を6月に制定し、今後段階的に施行されていくというのはご存知の通りです。
発想としては逃げ場のない屋内での喫煙を辞めていく、というものです。都条例では小規模店舗でも従業員のいないところしか喫煙ができないという厳しい条例になりました。
事業者や国・東京都は施設整備に力を入れて!
以上みてきたように、元来はたばこ規制は路上対策として自治体が進めてきました。
今は健康の観点から屋内の対策が進められています。議論の中には「においも問題」とするものもあり、今後さらに規制が進む可能性すら感じます。
路上対策と屋内対策。美化や安全と健康。議論の方向性の違いから来るトラブルはこれから増えていくと考えられます。これが本当に頭の痛いところ…
受動喫煙はもともと逃げ場がないことから屋内を対象とされています。ですから、現段階で路上の喫煙施設について受動喫煙を問うのはちょっと行きすぎじゃないかと思います。ただし、人が密集している地域・建築物に近い施設では「煙を避けようがない」という意味で受動喫煙は成立すると思います。また、できるだけ煙が周りに広がらないような配慮を強化していくのは当然だと考えています。
さて、屋内喫煙が厳しくなる中、渋谷駅周辺エリアでは興味深い行動が見られます。近隣オフィスに出勤する前のたばこラッシュ。オフィスから出てきて喫煙所でタバコを吸い、戻っていく方。デパートや店舗に行く前後に喫煙所でタバコを吸う方。
もしオフィスや店舗がきちんと密閉型の喫煙所を整備してくれていたら、そこまで集まらないんじゃなかなぁと…
喫煙マナーはここ20年で大幅に向上したと思います。ポイ捨ては劇的に減り、歩行喫煙を見るのも稀になりました。喫煙者の皆さんの努力はありがたい限りです。
しかし、今後屋内禁煙にともなう喫煙専用室設置等の設備投資負担をオフィスや集客施設が怠るとすればどうなるか。私はそれを強く懸念しています。
ぜひ社会的な責任を果たしてほしいと思います。
そして、国や東京都は、規制をするだけじゃなくその分の社会的負担を応分にまかなうよう求めたいですね。区は路上喫煙を禁止する代わりに喫煙場所設置やポイ捨て対策で汗をかいています…
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