渋谷区議会議員の鈴木けんぽうです。

渋谷の財政状況について、しばしば「お金を貯めこんでいる」「もっと区民に還元しろ!」との声が上がるので、その原因の一つの「財政調整基金」の妥当な水準について考えてみます。

ほんとに十分すぎるほどため込んでいて余裕があるの?




<財政調整基金とは>




ひらたくいうと「いざという時の預金」です。みなさんもいざという時に備えてある程度のお金を預金していると思います。

自分の病気や家族の病気の医療費、働けなくなった時の備え、いろいろなトラブル…と考えるとある程度の余裕は欲しいですよね。

しぶやくでもいざという時のために貯金があります。これを「財政調整基金」と言います。

難しく言うと、「予算不足を年度間で調整するための基金」となりますけど、余裕があるときにためて経済が厳しくなった時に使うってことですね。




なお令和5年6月末の数字で約540億円あります。

渋谷区の1年間の財政規模が1200億円くらいだから半分ってことになりますね。

ちなみに令和3年の特別区の基金残高平均は328億。渋谷区は446億で平均よりもちょっと多めです。ただし特別区全体の財政規模平均は1300億円くらいですから、渋谷区の方が基金は多め、財政規模は少なめ、ということになります。




<財政調整基金の妥当な水準>




以下、何種類かの考え方で財政調整基金の妥当な水準を考えてみます。




1)単年度の変動を吸収できる水準




急な財政変動があっても1年だけしのげればいい、という考え方です。

渋谷区は景気変動にとても影響される自治体なので景気が悪くなると途端に税収が激減します。この幅に相当する水準を考えてみます。




この場合:約60億円程度




ここ20年で一番特別区民税が減ったのが2009年(444億円)~2010年(393億円)の51億円です。

よってこの下落に対応するためには60億円ぐらい必要と言えます。




2)だいたい財政規模の1割程度




財政政策などの議論を見ると、コンセンサスとはなっていないものの、だいたい財政規模の1割程度がいいんじゃないか?という意見があります。

いま渋谷区の財政規模が1200億円程度なので、120億円程度の規模になるということですね。




この場合:約120億円程度




3)複数年の不景気に対応できる水準




1番目は単年度だけですけど、不景気はたいてい数年続きますよね。

ということで、複数年の不景気の税収減をまかなえるだけの貯金が必要、と考えた場合にいくらになるかを考えます。

ここ最近だとリーマンショックがありました。2008年におこり、2009ねんの予算から影響があり、2016年にようやく元の水準まで回復しました。

下の図をご覧ください。緑色が「特別区民税」で、住民のみなさんにお支払いいただく税金ですが、2009年~2015年くらいまで凹になっていますよね。

これが2008年におこったリーマンショックの影響による減収です。これを賄える水準が一つの基準になります。




図の赤い部分が影響額といえます




この場合:約350億円程度




リーマンショック級の不景気があったとして、その影響を財政調整基金でのりきると考えた時には350億円程度必要と言えます。




3)バブル並みの不景気に対応できる水準




リーマンよりさらにひどかったのがバブル不景気でした。これを乗り越えるのに十分な水準も検討しましょう。

なおバブルのころは私はまだ中学生でどういう状況なのかよくわからないのですが、渋谷区の財政課に聞いた数字があります。




この場合:約1000億円程度




だいたい今の1年間の渋谷区の一般会計規模が1000億円程度ですから、1年分に相当しますね。

バブル崩壊がいかにひどかったのかがよくわかります。




<どれくらいが妥当?>




4種類の水準を提示しました。




  • 60億円
  • 120億円
  • 350億円
  • 1000億円



いずれもそれぞれの根拠を持ったものであり(2番目は相場観的なものですけど)良し悪しは難しいです。

なお、行政の仕事は不況期の、財政的に厳しいときの方が重要になります。
不況期には生活困窮者が増えますし、また民間の支援も行わなくてはなりませんから、収入が減ったからと言って支出も減らすわけにはいきません。
むしろ増やしていくことがもとめられます。

そう考えると、リーマンショック級の減収に耐えつつ、さらに積極的に住民のサポートを行える水準である350億円、ただし物価高(特に資材高)を考えて2割増の450億円前後が妥当と思います。

今の水準は少し余裕がある、という感じでしょうか。長期的な人口構成や財政見通しまで考えると、500億円程度が安全なのかもしれませんね。




ただし財政調整基金は「低活用の資産」




財政調整基金は性質上、必要な時にすぐ取り崩さなくてはならないので、現金や預金が中心の運用となっています。

渋谷区の財政調整基金は、令和5年6月の段階で




  • 定期預金:約360億
  • 普通預金:約70億
  • 債権:約108億



という構成になっています。
利子は令和5年度予算で5200万と想定されており、少なくはないですけど利率も約0.1%弱にしかすぎません。

つまり、低活用の資産であると言えます。

よって、私の主張としては、




ある程度十分に「財政調整基金」を持っておくことは大事だけど、適正水準(500億円)程度にするべき




こんな感じです。




<資料・基金と特別区債の残高変化>








財政調整基金、その他基金(ほとんどは都市整備基金:インフラや建築に使う基金)、特別区債残高の変化を資料として載せておきます。年度末の数字。単位は億円。R5は当初予算からの予想。




財政調整基金特定目的基金(基金合計)特別区債残高
H28360442802105
H2936051487492
H30360600960105
R1361730109188
R2401716111774
R3446780122662
R4537872140952
R5(予)600830143043