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渋谷区議会議員の鈴木けんぽうです。

4年任期の最後に、識者に寄稿をお願いし、それを次期の参考にする、という取り組みを各選挙でやっています。これは、最新の知見を導入し、理論的裏付けを得たうえで改善を図っていくために重要な取り組みだと思っています。

 

今回は、授業づくりやメディアリテラシー教育などに取り組んでいる千葉大学教育学部副学部長の藤川教授に、こどもをとりまくスマホの状況が大きく変わったことについて解説していただきました。

携帯電話からスマートフォンに急速に置き換わっている状況についていけてないことがはっきり出ています。フィルタリングもガクッと落ちて、今までの延長線で考えるとうまくいかないということがわかりますね。

これを参考に、渋谷区のこどもたちを守っていきます!

 

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スマホ普及「平成25年問題」にどう対応するか?

 

千葉大学教育学部教授・副学部長 藤川大祐

 

平成25年問題とは?

 

 青少年にスマートフォンが急速に普及した結果、2013(平成25)年以降、子どもたちのネット利用に関して状況が深刻に悪化しつつあります。
 携帯電話・スマートフォンを持っている青少年の中で、スマートフォンを持っている人の割合が2013(平成25年)までに急増しました(図1)。

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図1 内閣府「平成25年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果」より

 スマートフォンと従来型携帯電話とではできることは似ているのですが、使われ方はかなり違います。スマートフォンの場合、アプリ(アプリケーション・ソフト)が世界中でたくさん作られ、公開されていて、利用者は多様なアプリを自分で入れて使うことになります。画面が大きく、映像やゲーム画面の閲覧にも適しており、ゲーム、動画視聴、交流サイトや交流アプリの利用等々、さまざまな用途に使われます。

 スマートフォンの普及に伴い、青少年のネット利用時間が長時間となっています(図2)。

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図2 内閣府「平成25年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果」より

 携帯電話・スマートフォンを通じて平日に2時間以上インターネットを利用すると回答した者の割合が、2010(平成22)年度から2013(平成25年)度の3年間で約2倍になっています。

 ネット上のいじめについても、状況が悪化しています。いじめの認知件数におけるネットいじめの認知件数の割合は、平成19年度をピークに低い値が続いていましたが、中学校と高等学校で、2013(平成25)年度、急に上昇しています(表1)。

表1

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(各年度の調査より数値を抽出した)

 

 犯罪被害の状況も悪化しています。出会い系以外のサイト(コミュニティサイト)での児童買春や児童ポルノ、淫行等の「福祉犯」被害は2010(平成22)年をピークに減少傾向でしたが、平成25年には急増しています(図3)。

スマートフォン用交流アプリの連絡先(ID)を交換するサイトが使われる被害が急増しており、スマートフォンの急速な普及が犯罪被害増加の背景にあります。

 

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図3 警察庁「平成26年上半期の出会い系サイト及びコミュニティサイトに起因する事犯の現状と対策について」より

 青少年を有害な情報から守るフィルタリング・サービスの利用率も、2012(平成24)年度までは高めで推移していたのが、2013(平成25年)度には各学校段階で低下してしまいました。スマートフォン利用者のフィルタリング・サービスの利用率が低いことが目立っています(図4)。

 

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図4 内閣府「平成25年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果」より

 携帯電話が普及して、ネットいじめや犯罪被害が問題になって以降、教育・啓発やネットパトロール等、さまざまな対応が重ねられ、問題はある程度落ち着いていました。しかし、スマートフォンが急速に普及したことにより、2013(平成25)年から状況は悪化に転じています。

これが、「平成25年問題」です。子どもたちをネット利用の問題からいかに守るかが、深刻に問われています。

 

「夜9時以降使用禁止」ではまずいのか

 

 こうした状況を受け、各地でさまざまな動きが起きています。特に目立つのが、夜9時以降は携帯電話やスマートフォンを使用しないようにしようと、地域や学校でルールを決める動きです。

 2014(平成26)年春に、愛知県刈谷市の校長等の団体が始めた動きが他地域にも広がっています。友人どうしでついつい遅くまでメッセージのやりとりをしてしまうケースが多いことから、地域や学校で時間を決めることで、使いすぎを防ぐことにつながると考えられています。

 もちろん、こうした取り組みには確実に効果があるはずです。ルールを決めれば子どもたちの多くは守るでしょうし、遅い時間に友達からメッセージが来てもルールがあることを理由に、早めにやりとりを終えやすくなります。深夜の利用が減れば、長時間利用やネットいじめ、犯罪被害等も生じにくくなるでしょう。

 しかし、だからといってこうした取り組みを進めることに私は批判的です。青少年は、自分たちの問題を自分たちの力で解決できるようになることを学ばなければなりません。携帯電話やスマートフォンの利用に関する問題は、青少年世代固有の問題であり、自分たちが学び話し合うことによって改善をはかれるものですから、まさに自分たちの力で解決すべき問題と言えるでしょう。

 実際、各地で生徒会の活動や地域での活動で、青少年が自分たちで解決策を話し合う取り組みが多く行われています。こうした取り組みをこそ、広げていくべきではないでしょうか。

 選挙権を18歳からにすることが現実味を帯び、民主主義社会の担い手を育成する教育がこれまで以上に重視されているということも、ふまえて考える必要があります。

 

変わり続ける社会にふさわしい教育を

 

 携帯電話やスマートフォンに関わる問題は、私たちの教育に対する考え方に修正を迫るものと言えます。

 平成25年問題に見られるように、携帯電話やスマートフォンをめぐる状況は、短期間でめまぐるしく変化してきました。数年違えば、状況は激変します。そして、デジタル技術の発展と新たなサービスの続出が今後も予想されており、当面は変化が落ち着くことが考えられません。

 変わり続ける社会の中で、私たちは青少年をどのように教育すればよいのかを問われています。変化の激しい部分に関して、大人が先回りして経験や学習をしてそれらにもとづいて教育をするということは不可能です。教員が学校教育の外とゆるやかに交流しつつ、学校外の組織が最新の状況に合わせた教材や授業プログラムを学校に提供できるようにしていく必要があります。

 ささやかではありますが、私が理事長をつとめるNPO法人企業教育研究会では、教育関係者が学校教育の外の人から学ぶ異業種交流型の研究会(千葉授業づくり研究会、関西授業づくり研究会、メディアリテラシー教育研究会等)を定期的に開催するとともに、企業の協力を得て新しい教材や授業プログラムを開発し、出前授業等によって学校に届ける活動を行っています。

 携帯電話やスマートフォンの問題に関しては、ソフトバンクモバイルとともに「考えよう、ケータイ」というシリーズの教材の提供を行っており、2015(平成27)年3月には最新の動画教材「みんなで考えよう、ケータイ・スマートフォン」を発表し、4月から希望する学校等に指導案付DVDの配布を行っています。この教材では、スマートフォンアプリでの仲間外れの問題、貧困家庭の子どもを地域でいかに支えるかという課題、スマートフォンに対応した家庭でのルールづくりのノウハウといった最新の話題を取り上げています。しかも、10分ほどのミニドラマを見て児童生徒が話し合うことで授業が成立するようになっており、教員に大きな負担をかけることなく児童生徒が考えを深められるように作られています。

 NPOや研究機関等の組織が、さまざまな関係者と日常的に交流し、学術的にも検討を進めることによって、ある程度は状況の先読みが可能になります。そして、企業の社会貢献活動とのタイアップによって、先読みを活かした教材や授業プログラムを開発し、普及させることができるようになります。そして、研究会等に参加する教員たちも、学校現場でリーダーシップをとり、新たな状況に対応した教育を推進することができるようになります。

 平成25年問題に象徴されるように、社会は変わり続けます。変わり続ける社会に対応した教育の構築を、具体的に進めていかなければなりません。

みんなで考えよう、ケータイ・スマートフォン