
渋谷区議会議員の鈴木けんぽうです。
文教委員会の視察で、鳥取市の青翔開智中学校・高等学校に行ってきました。
青翔開智は、探究学習とラーニングコモンズで全国的にも知られる私立の中高一貫校です。
選挙ドットコムには短縮版を書きましたが、ここではもう少し詳しく、青翔開智の実践から渋谷区の探究「シブヤ未来科」をどう育てていくべきかを考えてみます。
短縮版はこちら。
青翔開智の探究学習から考える、渋谷区「シブヤ未来科」の次の一歩
目次
3行で要約
- 青翔開智では、探究学習が6年間を通じて教科・進路・論文作成まで一体的に設計されていました。
- また、教科学習を「探究で使える道具」として位置付けている点も洗練されています。
- これを参考に渋谷区では、子どもが自分の興味関心を掘り出し、教科で学んだことを社会とつなげる仕組みとして、探究をさらに育てていきたいです。
探究学習が「学校全体の設計」になっている
青翔開智では、建学の精神に「探究・共成・飛躍」を掲げ、ICTを日常的な「文房具」として活用しながら、デザイン思考を取り入れた探究学習を学校全体で進めています。
視察してまず感じたのは、探究学習が単なる「調べて発表する時間」ではないということです。
探究が、授業、進路、学校空間、図書館、ICT、評価、そして生徒の学校生活全体に組み込まれている。言い換えれば、探究が学校の中心になっているように感じました。
中1から高1までは、1年ごとにテーマを決めてグループで探究します。高2では個人探究に進み、高3の1学期には1万字の探究修了論文に取り組む。その成果が、総合型選抜や推薦入試、大学での研究にもつながっていく。

中高の学びを大学以降の学びにつなげるしくみは探究Ⅰ〜探究Ⅵとして非常に明確に設計されています。
過去の論文が「先行研究」として機能している
特に印象的だったのが、過去の生徒の探究修了論文が廊下に蓄積されていて、後輩たちはそれを自由に読み、また「先行研究」として参照できることです。
これはとても大きいと思います。
探究学習では、よく「テーマ決めがむつかしい」と言われます。そもそも何を探究すればよいのか。どのくらい深めればよいのか。どんな問いなら研究になるのか。最終的にどのような形にまとめればよいのか。
これらは、口で説明されるだけではなかなかイメージしにくいものです。
しかし、先輩たちの論文が実物として並んでいれば、「こういうテーマでもいいんだ」「ここまで調べるのか」「こういう書き方をするのか」と具体的にわかります。
これは単なる成果物の保存ではありません。学校の中に、探究の文化を蓄積していく仕組みだといえます。
後輩にとっては心理的なハードルを下げる効果がありますし、先輩にとっても自分の探究が次の世代に引き継がれる意味を持ちます。
このアーカイブは、年を重ねるごとに価値を生み出す優れた仕組みだと感じました。いずれこの論文アーカイブにより「青翔開智の智はどのように継承発展しているのか」とか「青翔開智の修了論文の時代的傾向」とかをメタ研究する高校生も出てくるだろうなぁなんて思います。

上はプロレス技とストレッチ効果の論文ですけど、結構面白かったです。ちゃんと研究になっています。
教科学習と探究がつながっている
もう一つ重要だと感じたのは、教科学習と探究学習が明確に接続されている点です。
青翔開智では、教科の中に探究スキルラーニングが位置付けられています。教科学習を探究で使える道具として意識的に鍛えていくという考え方です。
今回の視察では、中学3年の数学の授業を見ました。テーマは、鳥取市のごみ量の経年変化から「平成19年の家庭ごみ有料化は、ごみの減量に効果があったのか」をデータで検証する授業でした。

ごみ減量化議論に直面している特別区議会議員としては非常に興味をそそられる、政策的に意味のあるテーマですね。
生徒たちは、習った知識を活かして、どのグラフで示すのが適切なのか。何を見れば変化が読み取れるのか。数字からどこまで言えるのか。そうしたことを考えていったようです。
まさに数学を「計算問題を解くためのもの」としてではなく、社会課題を分析するための道具として使う学びです。
単発であればよくあることかもしれませんが、全教科で系統立てて探究スキルラーニングの授業が行われているということが非常に大きな意味を持っていると感じました。
子どもたちはよく、「勉強したことが何の役に立つのか」と感じます。
三角比は生活の何の役に立つのか。歴史の年号を覚える意味はあるのか。数学のグラフを勉強して何になるのか。
こういう考えに陥ってしまい、テストで点を取るためだけに勉強していると感じれば、学びは退屈で苦しいものになります。納得していない学びは、かなりつらい。
この疑問・不信に対して、答えを実地で示していくのがこの探究スキルラーニングの真骨頂であるといえます。
数学はデータを読む道具になる。国語は問いを立て、文章で伝える道具になる。社会は地域や制度を理解する道具になる。理科は仮説を立て、検証する道具になる。英語は外の世界とつながる道具になる。
教科で学んだ知識や技能が、自分の関心を深めたり、社会を考えたり、人に伝えたりするための道具になる。
子どもたちがそう実感できれば、学びへの向き合い方は大きく変わるはずです。
探究とは、関心を掘り出して形にすること
今回の視察を通じて、私があらためて考えたのは、探究学習の意味です。
探究学習は、単に「調べて発表する」ことではありません。
私は、探究学習の大きな意義の一つは、子どもが自分の関心に向き合い、掘り出すことにあると考えています。
「自分は何が好きなのか」「何に引っかかるのか」「何をもっと知りたいのか」「なぜこれは気になるのか」
こうしたことを考える経験は、実はとても大切です。
将来の夢を早く決めさせるという話ではありません。むしろ逆です。
やりたいことを一つに絞る前に、やりたいことを増やす。気になることを増やす。自分の中にある関心の芽を見つける。それを少しずつ形にする。
これが、青少年の時期にはとても重要ではないかと思います。それこそが将来の可能性だからです。
子どもはすぐ飽きます。おもちゃや習い事なんかもすぐやめたがりますよね。
なにかに熱中したと思ったら、次の日には別のことに興味が移っている。大人から見ると「続かない」と見えるかもしれません。
でも、それは悪いことばかりではありません。
いろいろなテーマに少しずつ手を出してみる。少し調べてみる。人に聞いてみる。まとめてみる。厄介だったり飽きたりしたら次に行く。
そういう経験の積み重ねが、結果的に「自分はこういうことに関心があるのかもしれない」という自己理解につながります。
6年間の紆余曲折の果てに紡がれるのが青翔開智の修了論文なんだろうなぁと感じました。

渋谷区「シブヤ未来科」の現在地
さて、渋谷区でも、探究「シブヤ未来科」が全区立小中学校で進められています。
渋谷区は、令和6年度から文部科学省の授業時数特例校制度を活用し、総合的な学習の時間を大きく拡充しています。
企業・団体との連携、My探究、ポータルサイトの整備、発表機会の創出など、全国的に見てもかなり意欲的な取り組みです。
また、PTA関係者が主体となって設立した一般社団法人シブタンが、企業連携や発表会の運営などを支援している点も特徴的です。
つまり、渋谷区は「これから探究学習を始める自治体」ではありません。すでに制度を動かし、外部連携の仕組みもつくり、学校現場で実践を進めている段階です。
これは率直に評価してよいと思いますし、公立学校の取り組みとしてはかなり先進的だとも思っています。
一方で、青翔開智の実践を見たことで、渋谷区のシブヤ未来科をさらに育てるための課題も見えてきました。
注意:青翔開智と渋谷区立小中学校は条件が違う
まず注意点として、青翔開智の仕組みをそのまま渋谷区立小中学校に移すことはできません。
青翔開智は私立の比較的少人数の中高一貫校です。
6年間を見通した設計がしやすい。生徒は6年間ほぼ一緒。大学入試との接続も明確にしやすい。入学の時に方針に賛同しているから学校全体の教育方針を一貫させやすい。
こうした強みがあります。
一方、渋谷区立小中学校は公立です。
子どもの発達段階は小学校から中学校まで幅広い。興味関心の変化も大きい。転出入も頻繁にある。学力や家庭環境の差もある。教員配置は東京都の人事で、区の希望が通るわけではありません。
だから、青翔開智をそのまま真似ればよい、という話ではありません。大切なのは、青翔開智の実践から何を学ぶかです。
私が特に重要だと感じたのは、次の二つです。
渋谷区への示唆1:子どもに伝わるゴールを示す
青翔開智の探究は、生徒側から見てもゴールが比較的わかりやすいと思います。
中高で探究する。自分のテーマを深める。論文にまとめる。進路選択や入試につながる。大学での研究にもつながる。
もちろん探究は入試のためだけではありません。
しかし、生徒から見れば「何のためにやるのか」が見えやすい構造になっています。

これに対して、渋谷区のシブヤ未来科はどうでしょうか。
「答えのない問題に対して、自分で問いを立てる」「各教科で身に付けた知識を、生きて働く知識にする」「協働して課題解決する力を育てる」
こうした説明は、教育政策としては正しいと思います。しかし、子どもたちには響くでしょうか?
大人にはわかる。教育関係者にもわかる。でも、当事者の小学生や中学生が「なるほど、それならやってみたい」と思える言葉になっているか。もう少し考える余地がありますね。
私は、渋谷区の探究学習では「子どもたちが自分の興味関心を掘り出すこと」をもっと明確に打ち出してよいのではないかと感じました。
「自分の好きなことを見つける」「もっと知りたいことを増やす」「気になることを調べて形にする」「やりたいことを増やす」
こういう言葉の方が、子どもには届きやすいのではないでしょうか。
「これをやりたい」「もっと知りたい」「なぜこうなっているのか気になる」「こんな風に変えたい」
そう思えたときに、初めて必要な学びが見えてきます。
そのためには調べる力が必要だ。データを読む力が必要だ。文章で伝える力が必要だ。人に聞く力が必要だ。発表する力が必要だ。試行錯誤が必要だ…
こうして、教科学習や基礎的なスキルの意味も見えやすくなります。
青翔開智が、中高の探究から進路選択、大学での研究までを一本線で示せる設計をしているように、
渋谷区でも、小中の探究で得た興味関心が、高校での学び・大学や専門学校での学び・さらには仕事にもつながっていく。
そういう大きな筋道を示せるとよいのではないかと思います。
渋谷区への示唆2:「ショートマイ探究」を積み重ねる
その意味で、公立小中学校に合う形として提案したいのが、「ショートマイ探究」です。
青翔開智では、高2で1年間の個人探究に取り組み、高3で探究修了論文にまとめる流れがあります。
これは中高一貫校で、6年間を見通せる環境だからこそ成立しやすい仕組みです。
一方、小中学生にとって、最初から長期間一つのテーマを掘り続けることは簡単ではありません。
興味は変わります。途中で飽きます。最初に選んだテーマが思ったものと違ったなんて判明することもあるでしょう。転入してきた子が途中から参加する場合もあります。
だからこそ、渋谷区のような公立小中学校では、1日~1か月程度の短い探究を何度も回す設計が有効ではないかと思います。
それこそノート半ページ分くらいの分量でもいい。短い期間で、「ちょっとやりたいな」「気になるな」「試したいな」と思ったことを書いてみて、やったり調べたりして簡単にまとめてみる。そして振り返る。
これを個人で、チームで、何度も繰り返す。
一つのテーマを一生懸命掘ることも大切ですが、その前段階として、いろいろなテーマを掘ってみる経験が必要です。
小中学生の段階では、「一つを深く掘り続ける」だけでなく、「いくつもの入口を試す」ことにも大きな価値があるのではないでしょうか。
飽きてもよい。失敗してもよい。途中で違うテーマに移ってもよい。大事なのは、その経験をただの思いつきで終わらせず、小さくても形にすることと振り返ることです。
そうすれば、子どもたちは、自分の中にある関心の種を少しずつ広げていけるのではないでしょうか。
渋谷区への示唆3:教科の中に探究スキルを位置付ける
もう一つ、青翔開智で特に学ぶべきだと感じたのは、探究スキルラーニングの考え方です。
渋谷区の探究学習の説明では、【各教科で身に付けた知識を、探究の時間を通して「生きて働く知識」にする】という方向性が語られています。
これはとても大切です。
一方、青翔開智で行われているのは、【教科学習そのものを「探究で使えるスキルを鍛える場」として位置付ける】視点です。
似ているようで、力点が少し違います。
渋谷区が言っているのは、教科で学んだことを、後から探究で使う。つまり基礎を固めてから実戦に突入しようということです。
青翔開智の方針は、教科を学ぶ時点で「これは探究で使う道具なのだ」と意識できるようにすることです。
ここに大きな意味があります。
数学であれば、データを読み、変化を捉え、根拠を示す力。国語であれば、問いを立て、文章を読み、論理的に書く力。社会であれば、地域や制度を理解し、課題の背景を考える力。理科であれば、仮説を立て、観察し、検証する力。英語であれば、世界の情報に触れ、自分の考えを外に伝える力。
こうした力を、各教科の中で「探究に使えるスキル」として明示していく。
これができれば、子どもたちは教科学習をテストのためだけのものとして捉えにくくなります。
「これは自分の探究に使える」「これは社会を見るための道具になる」「これは人に伝えるために必要だ」
そう感じられれば、学びへの意欲も変わるでしょう。
ドルトン東京学園との比較で感じたこと
少しだけ、個人的に注目している東京のドルトン東京学園との比較にも触れておきます。
ドルトン東京学園も、探究やプロジェクト型学習に非常に力を入れている学校です。個々のプログラムの深さ、設備の充実、ルーブリックを用いた振り返りや内省の設計などは、とても洗練されている印象があります。
例えば生徒が企業と連携しながら校内のコンビニを運営し、何をどれだけ仕入れるのか、どう売るのか、決済の仕組みは…などを議論しながら決めていったり、
一関市の地域課題を解決するため、2泊3日のホームステイ研修で一関に乗り込んで街や市役所の方と語り合ったり、
生徒主体の優良なプログラムが山のように存在しています。
誤解を恐れずに言えば、ドルトンは探究をベースとした一つ一つの学びの体験の豊かさに特徴があり、青翔開智は学校全体のシステムとして探究が貫かれているのが特徴だと感じました。
今はワールドカップをやっているのでサッカーで例えると、個人技を高めるのがドルトン、システムで得点力を高めるのが青翔開智といえるかもしれません。
もちろん、どちらが上という話ではありません。
ただ、公立小中学校に応用する視点で考えると、渋谷区が学ぶべきは、個別プログラムの華やかさではなく、青翔開智のように「何のために探究するのか」「教科とどうつなげるのか」「どのように積み上げるのか」を明確にする設計思想ではないかと感じました。
探究をイベントで終わらせない
探究学習は、放っておくと「調べて、スライドを作って、発表して終わり」になりがちです。
あるいは企業さんをお招きして楽しい授業を展開してもらって終わり、ということもあります。
企業とコラボして何かをデザインして販売した、という取り組みもよく耳にします。
もちろんそれも悪くはないんですけど、成果ばかりを気にしていてイベント化してしまうのだとしたら、もったいないなぁと思います。
本当に大切なのは、本人の学びです。
何に関心を持ったのか。どんなことをしたのか。次に何がのこるのか。何が学べたのか。
失敗も含めて、この過程こそが探究です。
青翔開智では、そこが学校全体の仕組みとして積み上げられていました。
形式ではなく、目的意識を学ぶ
青翔開智から学ぶべきは、形式そのものではありません。
私立中高一貫校の仕組みを、公立小中学校にそのまま移すことはできません。
しかし、「何のために探究をするのか」を明確にすること。子どもが自分の関心を掘り出すこと。教科で学んだことを社会とつなげること。探究の経験を積み上げていくこと。
この設計思想は、公立小中学校でも十分に活かせると思います。
渋谷区のシブヤ未来科は、すでに全国的にも先んじた取り組みです。だからこそ、さらに洗練させて子どもたちにとっての意味をどう明確にするかに取り組んでいきたいですね。
青翔開智の視察は、渋谷区のシブヤ未来科をさらに育てていくために、とても多くの示唆を与えてくれました。
関係者の皆さんに感謝申し上げます。



