
目次
<長いので要約>
不登校支援は、「学校に戻す」だけでなく、「学びをどう保障するか」の段階に入ります。
文科省WGが示した新制度案では、1段階目に通常の授業、2段階目に学び直し・体験活動・探究などを子どもごとに組み合わせる2階建ての「特別の教育課程」が検討されています。
<本文>
文部科学省のワーキンググループが、不登校児童生徒に係る「特別の教育課程」の取りまとめ案を示しました。
令和6年度の小中学校の不登校児童生徒数は約35万人。過去最多となる中で、これまでの不登校支援は、まず「安心できる居場所」をどう確保するかが大きなテーマでした。不登校の理由は様々ですし、一律に学校に戻すことだけを目的にするのではなく、休養や自分を見つめ直す時間なども大切にしなければなりません。
今回は次なる課題として①学校内外の教育支援センター等での指導の在り方②学びなおし等は成績上は評価されず学習意欲を下げてしまう、の2点が焦点となりました。
最大のポイントは「1階+2階」の二層構造
今回の制度案で重要なのは、「1階+2階」という考え方です。
「1階」は、通常の教育課程です。つまり、学校で行われている通常の授業や学びです。
ただ、それだけでは十分に対応できない子どもについて、「2階」として、個別の状態に応じた特別の教育課程を組めるようにする。これが今回の制度案の大きな骨格です。
ここで大事なのは、「1階」と「2階」が完全に別物ではないという点です。通常の学級での学び、校内教育支援センターでの学び、校外の教育支援センターでの学びなどを、子どもの状態に応じて組み合わせるイメージです。
いわば、子ども一人ひとりに合わせて、学びのパーツを組み合わせる仕組みです。この仕組みはギフテッドでも議論をされておりましたが、共通する制度で進めることになりそうです。
下学年の学び直しや体験活動も、教育課程上の学びに
今回の案では、特別の教育課程で扱う活動として、大きく二つが想定されています。
一つは、各教科等の目標や内容に基づきながら、柔軟に行う教育活動です。たとえば、下学年の内容に戻って学び直す、オンラインで原籍級の授業に参加する、本人の興味・関心に応じて学習する、といったものです。明確にまとめには表現されていませんが、場合によっては早修も可能であるようでギフテッドの時の議論と同じようです。
もう一つは、各教科には直接当てはまらないけれど、不登校児童生徒にとって効果的な教育活動です。たとえば、探究的・体験的な活動、他者との関わりを取り戻す活動、SST(ソーシャルスキルトレーニング)などです。
これはかなり大きな転換です。
これまで「学校の授業」としては評価しづらかった活動も、一定の計画のもとで、教育課程上の学びとして位置づけられることになりそうです。
ただし注意も必要です。すべての居場所活動がそのまま授業扱いになるわけではありません。安心できる居場所としての機能はどう位置づけられるか、そして評価が本当に正当になされるのかが運用の中で問われますね。
子ども自身が「自分の学び」に関わる
今回の案で私が特に重要だと思うのは、個別の指導計画の考え方です。
単に先生が「この子にはこの学習をさせよう」と決めるのではなく、子ども自身が目標設定や振り返りに関わることが重視されています。
不登校の子どもにとって、いきなり長期的な目標を立てることは難しい場合があります。だからこそ、小さなステップで、「何を学ぶか」だけでなく、「どう学ぶと自分は学びに向かいやすいのか」を一緒に考えるのは、とても大切ですね。
学び直しであっても、体験活動であっても、本人が「自分で決めた」「少し進めた」「次はこうしたい」と感じられるかどうか。ここが、学習意欲や自己肯定感の回復に直結します。
もちろんこれは先生方の負担増にもつながります。これについて、複数の支援計画や指導計画を一体的に扱う「2階シート(仮称)」のような仕組みも検討されています。障害、日本語指導、特異な才能、不登校など、複数の支援が重なる子どもを包括的に、専門的な知見を借りて整理する仕組みです。
きちんと機能すれば有効だろうなぁとも思います。
評価も変わる可能性がある
もう一つ大きいのが、学習評価です。
先ほども少し触れましたが、今回の案では、在籍学年と同じ目標に基づく評価だけでなく、在籍学年の一部の目標、下学年の目標、独自に設定した目標、さらには本人の成長や変化に着目する個人内評価など、多様な評価方法が示されています。
これは、「みんなと同じ進度で進めていないから評価できない」という考え方から、「その子が取り組んだ内容や成長をどう正当に受け止めるか」への転換です。
もちろん、評価の公平性や客観性は必要です。甘い評価にすればよい、という話ではありません。
ただ、本人が前向きに取り組んだ学びを、制度上もきちんと見えるようにすることは、特に不登校支援において非常に重要だと思います。
高校入試への接続も課題
評価を変えるなら、高校入試との接続も避けて通れません。
中学校段階で、特別の教育課程に基づいて本人なりに学び直しや探究に取り組んでも、それが調査書や入試で十分に考慮されなければ、結局「不利益」は残ってしまいます。
今回の案では、調査書に特別の教育課程での評定や記述評価をできる限り記載すること、高校入試でそれを一定程度勘案すること、面接や学力検査を重視する選抜など多様な方法を検討することが示されています。
本当にうまくいくのかというのはちょっと不安なところがありますが、特に当事者である子どもや保護者の不安がきちんと解消されるように、国や東京都(都道府県)は実装に向けて丁寧に議論してほしいと思います。
実装には慎重さも必要
今回の制度案は、大きな前進だと思います。
一方で、実装には批判的な検証も必要です。
第一に、学校や教育支援センターの負担です。個別の指導計画、評価、関係者間の共有、本人・保護者との面談を丁寧に行えば、当然、現場の負担は増えます。資料でも、過度な負担や負担感が生じないようにする必要性が繰り返し示されています。
第二に、対象者の判断です。この制度は、校内外教育支援センターを利用するすべての子どもを対象にするものではありません。休養を優先すべき時期の子どもにまで「学びなさい」という圧力がかかっては本末転倒です。
第三に、教育の質の確保です。校内外教育支援センターでは、教員免許を持たない指導員が関わることも想定されます。その場合も、学校が責任を持って指導計画や評価に関わり、必要な研修や連携体制を整えることが不可欠です。
それでも、方向性は重要な転換
傍聴していて、ある委員の発言が印象に残りました。
「教育はミスが許されないから、今まで少しずつ変わっていた。今回はゼロから仕組みを作るようなもので、とても緊張感がありました」
本当にその通りだと思います。
教育制度の転換は多くの子どもの人生に大きく影響します。だからこそ慎重でなければならない。
一方で、不登校の子どもがこれだけ増え、従来の制度では受け止めきれない学びが広がっている以上、変えなければならない部分もあります。
今回の「特別の教育課程」は、不登校の子どもを通常の学校の形に無理に合わせるのではなく、子どもの状態に合わせて学校制度の側を柔軟にする試みです。
大切なのは、居場所を失わせないこと。それぞれの事情やペースを否定しないこと。そのうえで、学びたいと思った時に、その学びがきちんと支えられ認められること。
いわば学校に子どもを合わせる時代から、子ども一人ひとりの状態に応じて学びの形を組み直す時代への転換といえます。
今回はまだWGのとりまとめですから実装されるまではまだまだ時間がかかります。今後の議論にも注目です。
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